私にほかに何ができたというのでしょう?
若殿の身を守るのが私たちの役目。逃れるすべはありません。
それにしても千松は……。
よく死んでくれました。とはいうものの、死なせたくはなかった。
御家は刑部様が継ぐべきです。それがひいては民のためにもなる。
何? 政岡? 千松?
道理のわからない奴らは鶴喜代もろとも踏みつぶしてやるわ!
あの人に出会った瞬間にわかったんです。
わたしが勝てる相手やないって。久松さんをとられてもしかたがないって。
後になって悔やむかもしれへんけど、わたしが身を引くしかないやないですか?
よかった。久松はやっぱりわたしのもの。
ほかの人には渡しとうない。
けど、わたしはほんとうに勝ったんやろうか?
ひどいじゃないの、太郎ちゃん!
あなただってわかってるでしょ? わたしたちが似合いだっていうことは。
自然の理から逃げちゃダメよ!
おさまるところにおさまったわね。
お決めになるのはえびす様。
誰の目にも正しい選択をなさるにきまってます。
さからうことはできませんわ。
わたしがまちがってました。小春さんがこんなに聡明な人だと知ってたら、あんな手紙は出さなかった。
小春さんを死なすことはできません。
でも、身を引くことがこんなに苦しいことだとは……。
おさん様、申し訳ありません。
あなたのお心に添おうとしたのですけれど、こんなことになってしまって、せめて死に場所だけは少し変えます。
「未来は一つ」なんて言いません。
文楽の女たち伽羅先代萩(政岡、八汐)
|