文楽 女たちの独白…

                              (執筆・FT)

政岡 ―乳母として若君を守る武家の女   

私にほかに何ができたというのでしょう?
若殿の身を守るのが私たちの役目。逃れるすべはありません。
それにしても千松は……。
よく死んでくれました。とはいうものの、死なせたくはなかった。

 八汐 ―お家乗っ取りをたくらむ悪女    

御家は刑部様が継ぐべきです。それがひいては民のためにもなる。
何? 政岡? 千松? 
道理のわからない奴らは鶴喜代もろとも踏みつぶしてやるわ!


お光 ―村の娘、恋敵を思い身を引き尼に  

あの人に出会った瞬間にわかったんです。
わたしが勝てる相手やないって。久松さんをとられてもしかたがないって。
後になって悔やむかもしれへんけど、わたしが身を引くしかないやないですか?

 お染 ―町人(油屋)の娘、奉公人と恋仲に

よかった。久松はやっぱりわたしのもの。
ほかの人には渡しとうない。
けど、わたしはほんとうに勝ったんやろうか?




醜女 ―太郎冠者が釣った世にも恐ろしい?……  

ひどいじゃないの、太郎ちゃん! 
あなただってわかってるでしょ? わたしたちが似合いだっていうことは。
自然の理から逃げちゃダメよ!

 美女 ―大名が釣った世にも美しい女性

おさまるところにおさまったわね。
お決めになるのはえびす様。
誰の目にも正しい選択をなさるにきまってます。
さからうことはできませんわ。



おさん ―遊女に夢中な夫を支え、義理に生きる女房    

わたしがまちがってました。小春さんがこんなに聡明な人だと知ってたら、あんな手紙は出さなかった。
小春さんを死なすことはできません。
でも、身を引くことがこんなに苦しいことだとは……。

     

 小春 ―遊女、妻子ある男と深い仲に

おさん様、申し訳ありません。
あなたのお心に添おうとしたのですけれど、こんなことになってしまって、せめて死に場所だけは少し変えます。
「未来は一つ」なんて言いません。

 

文楽の女たち

伽羅先代萩(政岡、八汐
新版歌祭文(お光、お染
釣女(美女、醜女
心中天網島(おさん、小春

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